Frieda: Magical moment
(続き)
網タイツを新しくした。
120cm の球体関節人形だからキッズ用Sサイズが違和感なく穿ける。探していた黒いボレロも見つけたので、上下それらしい雰囲気に着替えさせた。等身大ドールも球体関節人形も、新しい装いをさせて初めて新たな撮影を考える。衣装が手に入りにくいサイズの子は、時間が経つにつれ、どうしても出番が少なくなる。背景を変えたり、一緒に写す小道具を吟味することで、ある程度は壁を乗り越えることができるのだが、結局は外撮影が叶わないことを一番の言い訳にしてしまう。
この子を外へ連れだせるなら…。野外はやはり似合わないだろう。思い描くのは、照明を落としたジャズ喫茶のカウンター席。ロックグラスに大きな氷。バーボンでもスコッチでも構わない…。そんなことを思いながら着替えが完了。脱がせたものが散乱する中、寝そべる様子を一先ず撮影。人形としての美しさが際立つように感じた。
しかし、魔法の瞬間は、この後。いつものように西の窓辺に連れていって、カウンターチェアに座らせると、目の前に居るのは、あれこれ屈託を抱えた何か言いたげな女の子だった。人形を身近に見ている人なら、この感覚はお馴染みのものだろう。人間というのが妙なら、別の世界の美しい生き物。カメラを覗き込んでいる私の前に現れたのは、そんな奇蹟なのだ。
どれだけ待っても、彼女からの言葉はないのだけれど、そんな時は、ただ見詰めるしかない。