Alice38: A secret and comfortable place
(続き)
北側の一方だけに小さな窓があるスペース。以前から撮ってみたいと考える光があった。
足場に不安があるため、大きな人形では難しく、結局はいつもどおり38cmのこの子を連れてくる。しかし、液晶モニターに映ったこの子の様子を見て思った。彼女以外にこの場所が相応しいものなど無い。
撮影しながら、こんな場所に隠れていた小学生の記憶が甦る。一つは友人の家に残されていた防空壕の跡。立ち入りは禁止されていたのに、或る日、友人に誘われて中に入った。思っていたよりも中は狭くて、上の建物が燃えてしまったら、ここは本当に安全な場所だったのか怪しい気がした。奥に転がっている大きな火鉢を眺めた後、上がり框の裏側から覗いた玄関が眩しかった。
もう一つは、別の友人の家の、一階と二階の隙間。階段裏の小さな空間を綺麗に掃いて、包装紙を敷き詰め、座布団を持ち込んで寝転べるように工夫されていた。どちらの空間も、中にいる間は声を出してはならず、まるで読唇術のように相手の口の動きだけを見て会話していた。
あの頃、漫画雑誌の口絵では、「これが少年の秘密基地だ!」という図解が流行っていたのかもしれない。木の上や土管の中、葦原の河原など、魅力的な設定が幾つもあった気がする。
私が招待された「秘密基地」は薄暗い空間なのに、どこかに隙間があって、外の光が鮮やかに差し込んでくる場所だった。思えば、暗い画像ばかり撮っているようだが、私は光を写していたのだと分かった。それも人工的な光ではなく、私には余所余所しい外の世界を満たす陽光だった。
懐かしいような哀しいような、そんな思いが俄かに胸中に広がった。